「ソングラインを旅する」 Powered By ETC [ 英会話プライベートレッスン ]

 

ブルース・チャトウィンふとしたきっかけで、ある人のことが心に残り、その人のことを深く知りたくなることがあります。

彼らがどう死んでいったのかというエピソードは、彼らがどう生きていたのかという興味に変わり、彼らが愛した場所を訪ね、彼らが旅をした風景を見て、彼らの息遣いに自分自身の呼吸を重ね合わせ、彼らの心を感じてみたくなるのです。この世に遺して行っていった彼らの想いがそうさせているのかもしれない、とさえ思うことがあります。

そして、僕は今ブルース・チャトウインという人に出会ってしまったのです。

僕は彼の遺作である『Songlines』を、原書(翻訳本は絶版)で読んでいくことにしました。 日本語訳をサポートしてくれるのは、ETCが紹介してくれたヘルナンデス先生。

他界する二年前に、ブルースが旅したオーストラリア。彼が『Songlines』に書き残してくれた足跡を、僕が辿って行く。 その過程をここに書き溜めて行きます。

 

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2006年05月25日

会社を辞めた理由

UTZ

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僕が20代の時、有名な芸術品のオークション会社で、現代絵画の専門家とし
て働いていた。僕の将来は光り輝いていた。選択さえ間違わなければ、将
来は大いに出世するだろうと周りからは言われた。

ある朝目覚めると、僕の目は見えなくなっていた。

                     『ソングライン』(16ページ)
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医者には、「絵を見る時、目を近づけて過ぎていることが原因。たまには、
遠くの地平線でも眺めたらどうか」と薦められます。そこで、ブルースはア
フリカのスーダンへ旅立ちます。視力はスーダンに到着するとすぐに回復。
帰国後、オークション会社の「サザビーズ」を辞めてしまいます。

文中には退職の明確な理由は語られていません。どうも、オークション会社で
の仕事に嫌気がさしてしまったようです。優秀な人材だったようなので、美術
品に関する知識は勿論のこと、販売実績もずば抜けていたのでしょう。
でも、僕には目に見えないソングラインを巡りオーストラリア旅をするブルー
スの姿と、物にこだわる美術品販売の仕事が、どうしても相容れないものに
感じられるのです。


彼の著作の中で、唯一映画化された作品があります。


『マイセン幻影』(1993年)。
 (原作は『UTZ』、邦題は『ウッツ男爵-ある蒐集家の物語』)


陶磁器に詳しい祖母の影響を受け、マイセン磁器の収集家となったフォン・
ウッツ男爵のお話し。舞台は社会主義国時代のチェコ。

僕が東欧に駐在していたのは、社会主義体制が崩壊した直後でしたが、まだ、
街の中にも、人の中にも旧体制の香りがしっかりと残っていました。

映画が撮影されたのもおそらく同じ時期。ヨーロッパの歴史をそのままに、
古く美しい街並みも、どこか地味で暗く、重く抑圧されていたチェコの雰囲
気が、映画にもしっかりと映し出されています。

東欧の人々特有(?)の地味だけど気品高いウッツ男爵の姿が、いざ価格交渉と
なると、芸術品への所有欲、物欲がその気高さをどんどんと崩して行き、滑
稽にさえ見えてきます。

ところが、死期を間近に感じるようになると、数百万ドルといわれた彼のコレ
クションを、妻のマルタに言って全て床に叩きつけて壊してしまいます。そ
れは、死を間近に感じ、物にこだわることの儚さを悟ったからのようにも思
えます。

僕は、このウッツ男爵の姿に、将来を嘱望されながらもオークション会社を
退職したブルースの姿が投影されているのではと思います。

形ある物ではなく、目に見えないものに価値を追い求める生き方。

それが、彼の「ソングライン」を巡る旅に繋がっているような気がします。

そして、10年前に僕が会社を辞めた時、あの時追い求めていたものはなん
だったのだろうか。もう一度思い返しています。

Links

SONGLINES』はETCからご紹介いただいたHernandez先生(渋谷区外苑前)と一緒に読み進めています。