兄弟探し
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大伯母は決して僕を怒鳴ったりしなかった。あの時を除いて。
1944年5月のある夜、僕は風呂の水の中におしっこをしてしまった。
「もし、もう一度やったら、ボナパルトがお前を捕まえにくるわよ!」
大伯母はそう言って怒った。
僕は、ボナパルトの亡霊に怯えた最後の子供に違いない。
『ソングライン』(7ページ)
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ボナパルト…? そうです。ボナパルト・ナポレオンです!
僕が子供の頃は、
「お母さんの言うこと聞かないと"怖いおじさん"が来て連れてかれるわよ!」
と叱られたなあ。
そもそも、世界史落第生の僕には、ナポレオンは「ヨーロッパの英雄」程度
の知識しかなく、ヨーロッパ人は皆彼をヒーローとして崇拝しているとばか
り思っていました。
ところが、英国人のブルースにとってのナポレオンは、僕にとっての"怖いお
じさん"、秋田の子供達にとっての"なまはげ"のような存在だったんですね。
英国に驚異を与えたフランス人のナポレオン。なるほど、英国人の視点で考
えれば、「子供が怯えあがる怖いおじさん=ナポレオン」というのは、理解
できます。
そう言えば、隣国同士の間には、様々な"突付き合い"があったことを思
い出しました。
「決して勤勉とはいえないのに、この国ではマレー人が優遇されている」と
学校制度の不平等を訴え、小学生の娘の将来を心配していた中国系マレーシ
ア人。
「僕たちの国とは違って、彼らは広大な土地と資源に恵まれているからね。
そんなにあくせく働かないんだ。だから、この国は僕たちにとってチャンス
なんだよ」と、こっそり教えてくれたオーストラリアの企業で取締役に昇進
したニュージーランド人。
アイルランド人の英語のアクセントとギネスビールの味の濃さをギャグに
して笑っていた英国人紳士…
北欧では、どうでしょう。
『キッチン・ストーリー』というノルウェー人監督の映画を見たことがあ
ります。ノルウェー人の老人とスウェーデン人の会社員の奇妙な関係がやが
て友情に発展して行くという心温まる映画。でも、随所にノルウェー人の監
督がスウェーデン人のことを滑稽に描いているのがわかるんですよね。
友人のペオさんに、ノルウェー人とスウェーデン人の関係について質問を
してみたことがあります。ペオさんは、すこし喋りづらそうな笑いを浮かべ
ながら、こんな風に教えてくれました。
「う~ん…。ノルウェー人とスウェーデン人はよく似ていますよ。
兄弟みたい。だから、時々兄弟喧嘩するんです。(笑)」
なるほど、先にも書いた隣国人同士の突付き合いも、兄弟喧嘩に置き換え
ると良く理解できるなあ。
でも、兄弟といっても、大喧嘩して疎遠状態になってしまった兄弟がある
と思えば、本当に繋がりの強い仲の良い兄弟もありますよね。
日本には八百万の神様がいるそうです。『ソングライン』を読んだことが
きっかけなのですが、ギリシャ神話には、この八百万の神々に負けず劣らず、
覚えられないほどに沢山の神様が登場していることに気付きました。ケルト
民族の神話も同じ。ラップランドの人々は、日本の古代神道と同じ様に、
山、河、湖等々、自然の中に様々な神が宿っていると信じているそうです。
僕がブルース・チャットウインの本にはまっているのは、一見直接の繋がり
がなさそうな、僕と英国人のブルース、そして日本人とヨーロッパの人々と
の間に、兄弟のような不思議な繋がりを見つけられる予感がしているからな
のです。
ふとしたきっかけで、ある人のことが心に残り、その人のことを深く知りたくなることがあります。

