「ソングラインを旅する」 Powered By ETC [ 英会話プライベートレッスン ]

 

ブルース・チャトウィンふとしたきっかけで、ある人のことが心に残り、その人のことを深く知りたくなることがあります。

彼らがどう死んでいったのかというエピソードは、彼らがどう生きていたのかという興味に変わり、彼らが愛した場所を訪ね、彼らが旅をした風景を見て、彼らの息遣いに自分自身の呼吸を重ね合わせ、彼らの心を感じてみたくなるのです。この世に遺して行っていった彼らの想いがそうさせているのかもしれない、とさえ思うことがあります。

そして、僕は今ブルース・チャトウインという人に出会ってしまったのです。

僕は彼の遺作である『Songlines』を、原書(翻訳本は絶版)で読んでいくことにしました。 日本語訳をサポートしてくれるのは、ETCが紹介してくれたヘルナンデス先生。

他界する二年前に、ブルースが旅したオーストラリア。彼が『Songlines』に書き残してくれた足跡を、僕が辿って行く。 その過程をここに書き溜めて行きます。

 

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2007年01月09日

野施行(のせぎょう)

こんこんさん

『The Songlines』の中に、アーネスト・トンプソン・シートンの『ティートー
知恵のついたコヨーテの話し』(原題:『Coyotito』)について書かれてい
る部分があります。

人間に捕まり、虐待されたコヨーテが、ある日死んだふりをして逃げ出しま
す。そして、森に戻り、人間の世界で学んだコヨーテたちを危険にさらすも
の、つまり、武器、わな、毒などについて、仲間に教えて行きます。やがて
コヨーテたちは知恵をつけ、人間の狩猟にかかりにくくなり、絶滅するこな
く、今の時代も生息しつづけている、という物語です。

本を読んで、とても違和感を感じたのは、シートンが、コヨーテの賢さを賞
賛する一方で、物語に登場する人間をみな、醜く愚かで残忍で救いようのな
い生き物として書いていることでした。彼の人に対する憎しみのようが感じ
られたのです。

たとえば、オオカミ捕りのジェークはいつも二日酔いで、短気で、だらしな
く、オオカミに懸けられた賞金のことばかりを考えていました。

牧場主の子供、リンカーン少年は、コヨーテを相手に投げ縄の練習をし、大
型のわなを試し、毒餌を与えみるなど、好奇心のままに、コヨーテをいたぶ
ります。


「人間は、自分たちの欲望を満たすために、動物たちの命のみならず、この
地球自体を破滅に追いやろうとしている」


この考え方、頭では理解できるとしても、こう思いながら人間として生きて
行くのは正直つらいです。

もっと、人間と動物がまぐあえる、お互いの命の中間にある落とし所のよ
うな在り方はないのでしょうか。


          --- ☆ --- ☆ --- ☆ ---


かつて日本には野施行(のせぎょう)という庶民の習慣があったそうです。

冬の間は狐や狸が飢えているので、施行すると応報があるといって、狐塚や
狐穴に赤飯や油揚げなどをお供えして廻ったそうです。

僕の大好きな藤山寛美さんのお芝居『笑説 吉野狐』にも、この野施行が登場
します。


主人公の島三郎は商売に失敗し、親から勘当されてしまいます。川に身を投
げようとしていたとき、通りすがりの男性に助けられ、その男性の勧めでう
どん屋を始めます。

すると、かつて島三郎が一方的に思いを寄せていた美しい女性、吉野が訪ねて
きます。吉野は島三郎のところに嫁がせてほしいと迫ります。しかも、今ま
でに自分が働いて稼いだ貯金と一緒に。

二人はめでたく結婚。美人の女将がいるということもあり、うどん屋は大繁
盛。でも、実はこの吉野はかつて島三郎が助けた狐の化身。店に本物の吉野
が来て、ばれてしまいます。


島三郎:「お前はいったい何じゃ。
     何や言え、言え、言わんのか」

吉 野:「まことのことを申し上げます
     ころは今年の如月(きさらぎ:陰暦で二月)の
     寒風激しく降り積もる雪の大和は吉野山。
     麓の野辺に住まいうる私こそ、無官の狐でございます。
     親子五匹がひもじさに、難事をいたすそのおりに
     お恵みありし小豆飯、油揚げもろともちょうだいなし
     親子五匹の命助かり、せめてご恩にむくいんと
     吉野の君の姿を借り、あなた様を訪ねてまいったのでございます。」

島三郎:「思い出した! 思い出した!
     そうか、あの時、吉野へ野施行やろうと言うて、
     小豆飯、油揚げ炊いて、それもって弁当作り、
     大和路さして吉野へ行った。

     その時に、にわかに空が掻き曇り、
     こりゃあ嵐になる、はよ戻れと
     持ってきた弁当をその場に投げ捨て。

     わしらが帰ったその後で、
     腹減らしたお前達が、親子が命ながら得た。
     その礼に、吉野の姿を借りて、恩返しにきてくれたのかあ。」


自分が恋した女性に化け、しかもお金まで持って恩返しに来てくれる。
なんとも艶っぽくしおらしく、人心を心得た狐なのだろう。


          --- ☆ --- ☆ --- ☆ ---


もしかしたら、あなたのそばにいて、いつもあなたを助けてくれている優し
いその人は、あなたがかつて愛でた子犬、もしくは大切に育てた草木かもし
れません。

ためしに、聞いてみたらどうだろうか。

 「お前はいったい何者じゃ。」

いや、やはり、聞かずにおきましょう。

そのかわり、感謝の気持ちをこめて、そっと赤飯と油揚げをお供えしましょ。

◆参考
・『シートン動物記[3]』(アーネスト・トンプソン・シートン)
・『笑説 吉野狐』(藤山寛美)
・『復活珍品 上方落語選集』(桂文我)

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SONGLINES』はETCからご紹介いただいたHernandez先生(渋谷区外苑前)と一緒に読み進めています。